大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

水戸地方裁判所 昭和63年(行ウ)15号 判決 1990年7月10日

原告 青山清一郎

被告 茨城県知事 ほか一名

代理人 武田みどり 小林辰夫 市川日出夫 和田寛治 大森健一 白石武 ほか六名

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告の請求の趣旨

1  被告茨城県知事が昭和六三年二月八日付で原告に対してした審査請求棄却の裁決を取り消す。

2  被告吹上土地区画整理組合が原告に対してした(一)昭和五二年七月一八日付で指定した仮換地指定の昭和六〇年一二月一七日付取消処分、(二)昭和六〇年一二月一九日付の新たな仮換地指定処分及び(三)同日付の右仮換地の使用収益開始日指定処分をいずれも取り消す。

3  訴訟費用は被告両名の負担とする。

二  請求の趣旨に対する被告両名の答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  原告の請求原因

1  原告は、日立市久慈町二丁目二九三四番所在の宅地五四七・一〇平方メートル(以下「本件土地」という。)を所有しているところ(位置関係は別紙図面1のとおり)、被告吹上土地区画整理組合(以下「被告組合」という。)は、昭和五二年七月一八日土地区画整理法(以下「法」という。)九八条一項の規定に基づき、本件土地について、街区番号6、表示番号ハの予定地積四六四平方メートル(位置関係は別紙図面2のとおり)及び街区番号23、表示番号チの予定地積四九平方メートルを仮換地として指定した(以下「第一次仮換地指定処分」という。)。

2  被告組合は、昭和六〇年一二月一七日、原告に対し、第一次仮換地指定処分のうち、右街区番号6の仮換地についてその指定を取り消し、新たに街区番号6、表示番号ニの予定地積三九四平方メートル(位置関係は別紙図面3のとおり)を仮換地として指定する(以下「第二次仮換地指定処分」という。)とともに、使用収益の開始日を昭和六〇年一二月二四日と定める旨の通知をした(以下「本件各処分」という。)。

3  原告は、本件各処分について、これを不服として昭和六一年一月二二日付けで被告茨城県知事(以下「被告知事」という。)に審査請求したところ、同被告は昭和六三年二月八日右審査請求を棄却する旨の裁決をした(以下「本件裁決」という。)。

4  しかしながら、本件各処分は以下に述べる理由によりいずれも違法であり、また、本件裁決も右違法を看過した違法があるから、いずれも取り消されるべきものである。

すなわち、一度指定された仮換地についての変更は、特に公益上の必要等特別の事情がない限り許されないと解されるところ、本件仮換地の変更は、関係権利者(原告、鈴木夏吉、横浜容器工業株式会社)間の位置、面積の変更であって、特に公益上の必要がないのは明らかであるうえ、本件各処分以前からの鈴木夏吉による本件各処分を前提とした違法な土地利用を是認して、原告に不利益を強いるものであり、しかも、時期的にも第一次仮換地指定処分を争う方法がなくなった後に、右処分から約八年半も経過してされたものであって違法である。

5  よって、原告は、本件各処分及び本件裁決の取消しを求める。

二  請求原因に対する被告知事の認否及び主張

1  請求原因第3項の事実は認める。

同第4項の事実は否認する。

同第5項は争う。

2  行政事件訴訟法一〇条二項によれば、本件裁決の取消しの訴えにおいては、被告組合がした本件各処分の違法を理由として取消しを求めることはできないところ、原告の主張は、要するに、本件裁決が、同裁決において理由付記した本件各処分の変更理由に関する事項についての認定、判断に誤りがあるということであり、帰するところは、本件各処分の違法事由と同一である。

従って、原告の右主張は、右法条の規定に違背するものであるから、本件裁決の取消請求の理由とはなり得ない。

三  請求原因に対する被告組合の認否

1  請求原因第1項ないし第3項の事実は認める。

2  同第4項の事実は否認する。

3  同第5項は争う。

四  被告組合の主張

1  本件吹上土地区画整理事業の手続の概要

(一) 組合の設立認可

吹上土地区画整理組合設立認可申請人代表山形鉄雄ほか六名は、法一四条一項の規定により、定款及び事業計画を定め、関係権利者一七〇名のうち一四九名の同意を得、昭和四九年六月一日付で被告知事に対し、組合設立認可申請をした。

被告知事は、前記設立認可申請を受け、昭和四九年一〇月三日付都計指令第三九三号をもって、法一四条一項の規定により組合の設立の認可をした。

(二) 土地評価基準及び土地評価要領について

昭和五一年八月二四日、被告組合の理事会(以下「理事会」という。)は、換地設計をするにあたり、整理前及び整理後の土地の評価の適正と均衡を図ることを目的とする土地評価基準案及び土地評価要領案を可決した。

この土地評価基準における土地の評価方法は、路線価式評価方法を採用するものであった。

(三) 仮換地案についての総代会の同意

昭和五一年一一月五日、被告組合の総代会(以下「総代会」という。)は、前記土地評価基準案、土地評価要領案及び仮換地案について可決した(法九八条三項)。

(四) 仮換地案の縦覧

仮換地案の縦覧については法の定めはないが、被告組合は、広く関係権利者の意見を反映させるため、仮換地案について昭和五一年一一月二四日から同月三〇日までの七日間公衆の縦覧に供した。

(五) 意見書の提出及び処置

前記縦覧期間中に提出された意見書については、その内容について理事会(昭和五二年三月七日開催)において審議を行い、前記縦覧に供した仮換地案の一部修正案を作成した。

総代会(昭和五二年五月二七日開催)は、前記理事会での意見書等の審議結果について承認可決をし、仮換地案の一部修正案についても可決した(法九八条三項)。

(六) 仮換地指定

被告組合は、第一回目の仮換地指定通知を昭和五二年七月一八日付吹上組第三一号をもって行い、仮換地の効力発生の日は昭和五二年七月二三日と定め、その旨を原告を含む関係者に通知した(法九八条一項)。

また、仮換地について、使用又は収益を開始することができる日については別に定めることとし、その旨を原告を含む関係者に仮換地指定通知書にて通知した(法九九条二項)。

なお、この第一回目の仮換地指定をした街区の範囲は、次のとおりであり、本件訴訟の対象となっている原告の宅地は、6街区に含まれており、原告に対する当初の仮換地指定も、この第一回目の仮換地指定の際に被告組合がしたものである。

1ないし9街区、11街区の一部、13の1、13の2街区、14ないし16街区、17街区の一部、18街区、20ないし24街区

(七) 仮換地使用収益開始日の通知

被告組合は、前記仮換地指定通知書において別に定めることとした仮換地使用収益開始の日について、昭和五五年六月六日付吹上組発第二五号をもって、昭和五五年六月一六日と定め、その旨通知した。ただし、6街区については、問題解決未処理のため通知しなかった。

(八) 原告ら三名に対する仮換地指定取消し及び新たな仮換地指定

被告組合は、前記のとおり仮換地指定を行った6街区について、後に述べるとおり、仮換地を変更する必要が生じたため、その変更について、昭和六〇年一一月一〇日開催の総代会の同意(法九八条三項)を経た後、原告、横浜容器工業株式会社(以下「横浜容器」という。)及び鈴木夏吉(以下「鈴木」という。)に対し、昭和六〇年一二月一七日付吹上組第二二号をもって、昭和五二年七月一八日付吹上組第三一号による当初の仮換地指定の取消しをし、その旨それぞれ通知し、別途、昭和六〇年一二月一七日付吹上組第二二号をもって、新たな仮換地指定をし、併せて、新たな仮換地について使用又は収益を開始することができる日を昭和六〇年一二月二四日と定め、その旨それぞれ通知した。

2  原告らに対する当初の仮換地指定取消し及び新たな仮換地指定に至った経緯

(一) 6街区における従前地の位置(別紙図面1のとおり。)

(1) 原告

地番 二九三四番  地積  五四七・一〇平方メートル

(2) 鈴木

地番 二九五一番一 地積   九九平方メートル

地番 二九五一番三 地積  三九六平方メートル

(3) 横浜容器

地番 二九三三番  地積  九〇二・四七平方メートル

地番 二九三五番  地積  三九〇・〇八平方メートル

地番 二九三六番  地積  三九九・九九平方メートル

地番 二九三八番一 地積 一〇九〇・九〇平方メートル

地番 二九三八番三 地積  二七四・三四平方メートル

地番 二九五一番二 地積  四七九・三三平方メートル

(二) 横浜容器の従前地使用状況(別紙図面4のとおり。)

前記(一)(3)記載の自社所有地のほか同(1)、(2)記載の原告及び鈴木の各所有地を賃借して工場用地として使用し、北西側及び南西側をコンクリート塀で、南東及び北東側を植栽で外柵し、中央に工場建物を配しドラム缶再生工場を操業していた。

(三) 6街区における当初の仮換地指定(第一次仮換地指定処分)の地積と位置(別紙図面2のとおり。)

(1) 原告

地積 四六四平方メートル

位置 別紙図面2に表示

(2) 鈴木

地積 四五一平方メートル

位置 別紙図面2に表示

(3) 横浜容器

地積 三六〇一平方メートル、四八〇平方メートル

位置 別紙図面2に表示

(四) 6街区における新たな仮換地指定の地積と位置(別紙図面3のとおり。)

(1) 原告

地積 三九四平方メートル

位置 別紙図面3に表示

(2) 鈴木

地積 四六二平方メートル

位置 別紙図面3に表示

(3) 横浜容器

地積 三六六〇平方メートル、四八〇平方メートル

位置 別紙図面3に表示

(五) 当初仮換地指定の再検討について

被告組合が6街区における当初の仮換地指定をした後、前記訴外二者から被告知事に対して、行政不服審査請求が提起された。その要旨は、次に述べるとおり、原告及び訴外二者間の減歩不公平の是正及び仮換地位置の是正についてであった。

(1) 減歩についての訴外二者の主張及び被告組合の再検討について

6街区における土地の利用状況は、6街区全域を横浜容器が自社所有地のほか、原告及び鈴木の各所有地を賃借して工場用地として使用していたのである。

被告組合は、このような状況から、工場用地内の土地は同一の利用価値があるとの考えのもとに評価をし、当初の評価による減歩率は、横浜容器が七・六パーセント(合わせ換地を含めると一一・〇パーセント)、鈴木が一〇・〇パーセント、原告が一〇・〇パーセント(原告は23街区の飛換地を含めると七・五パーセント)であった。

しかし、原告の従前地が周囲を他の土地に囲まれたいわゆる島地であるにもかかわらず、工場用地の他の土地との一体評価は公平でないとの訴外二者の減歩不公平を理由とする審査請求が提起されたこと等から、被告組合は、当初仮換地の再検討を行うこととなった。

すなわち、被告組合は、この件に関して再検討を行った結果、原告の従前地は島地であり、土地評価基準においては、島地修正係数を乗じて評価されなければならないものであったにもかかわらず、当初仮換地指定において、その基礎となる原告の従前地(島地)の評価において島地修正係数を乗じていなかったこと、換言すれば、土地評価基準に従わない不公平な瑕疵ある評価であることを認めざるを得ず、従前地の再評価をすることになったのである。

(2) 仮換地位置の変更についての訴外二者の主張及び被告組合の再検討について

横浜容器の主張は、当初の仮換地指定位置(別紙図面2)は、原告及び鈴木の仮換地指定位置が工場建物(別紙図面4)に接近しており(右図面二枚を重ねるとその距離が約四メートルであることがわかる。)、ドラム缶の搬入搬出作業に支障があるから、工場建物との幅員を確保されたいとのことであった。

鈴木の主張は、仮換地指定後に横浜容器との土地賃貸借契約を解除することとなっており、ここに居宅を建築する計画があるから、仮換地指定位置は、従前地に照応する形状にされたいとのことであった。

(3) そこで、被告組合は、6街区における原告及び訴外二者の土地利用上の要請を総合的に勘案すべく、前述の減歩不公平等について再検討を行ったのである。

(4) 都市計画街路と横浜容器

本件土地区画整理事業区域内には、都市計画街路、路線番号3・4・52宿屋敷水木線があり、延長三一二〇メートル、幅員一六メートル及び一二メートルとなっている。

この都市計画街路は、日立市大みか町市街地と久慈町市街地を結ぶ幹線道路として重要な位置づけがされているものであり、早期整備実現に至れば、本区域の利便はもとより日立市住民の利便に寄与すること大なるものがあった。

本件区域にかかる都市計画街路は、公共公益的事業であり、既存六メートル道路を幅員一二メートルに拡幅及び新設する計画であったところ、拡幅及び新設にあたっては、利害関係人の理解及び協力があってこそ、速やかに整備促進がはかれるのであり、何らかの障害等により遅延が余儀無くされれば、それは、とりもなおさず、公共公益的事業の遅延であり、本件事業の施行に重大な支障をきたすことになる。

しかして、横浜容器の工場用地西側部分が都市計画街路拡幅の位置にあり、同社の建築物等を移転する必要があったが、横浜容器は、行政不服審査請求に対する被告組合の理解ある変更案が示されなければ都市計画街路整備には協力しかねる旨主張した。

なお、横浜容器の所有地に係る都市計画街路の部分は、既設都市計画街路日立臨港線と当該都市計画街路との交差する位置に近接する重要な位置であったのである。

(5) 再検討の結果

再検討の結果、被告組合は、6街区における減歩不公平について是正する必要を認めた。

そして、原告従前地(島地)の再評価の結果、減歩率は、横浜容器六・〇パーセント(合わせ換地を含めると九・五パーセント)、鈴木七・九パーセント、原告二三・三パーセント(飛換地を含めると二〇・一パーセント)が相当であると認めた。

ちなみに、本件土地区画整理事業区域内には、このようないわゆる島地が五一か所(袋地四か所含む。)あり、それらの平均減歩率は二八・七パーセントであった。

(六) 新たな仮換地指定

被告組合は、右の関係権利者間の不公平の是正のためより望ましい仮換地位置の実現をはかること及び本件事業の施行に重大な支障をきたすこととの理由をもって、新たな仮換地案を訴外二者及び原告に提示したところ、訴外二者からは理解が得られ、被告知事に提起していた行政不服審査請求を取り下げることとなった。

ところが、原告は、昭和五三年六月、被告組合の理事を辞任した。

その後においても、被告組合は、原告に対し、理解を得るべく再三再四説得要請を重ねたが、理解は得られなかった。

被告組合は、あくまで原告の理解を得たうえでの新たな仮換地指定を強く望んでいたのであるが、ここに至って、前述の理由により、総代会の議決を経て、前記のとおり、当初の仮換地指定を取り消し、新たな仮換地指定をしたのである。

なお、新たな仮換地指定における原告の仮換地の位置は、先ず、街区番号6、表示番号ニ、予定地積三九四平方メートルの土地は、南東側で幅員六メートルの道路に間口約二一メートル接し、南西側で幅員六メートルの道路に間口約一四メートル接したすみ切り約三メートルを有し、一般的に優良宅地といわれる角地であり、また、街区番号23、表示番号チ、予定地積四九平方メートルの土地は、原告が別途指定された街区番号23、表示番号リの仮換地に接し右仮換地と一体として利用できる状況である。

五  被告組合の主張に対する原告の認否

いずれも否認する。

第三当事者の提出、援用した証拠 <略>

理由

第一被告知事に対する請求について

原告が本訴において、本件裁決の違法事由として主張するところは、結局、本件各処分の違法事由と同一であることは明らかであり、右は、行政事件訴訟法一〇条二項により、裁決取消しの訴えの違法事由として主張することの許されないものであるといわなければならない。

そして、原告は、本訴において、右のほか、本件裁決固有の違法事由を主張、立証するところがないから、原告の被告知事に対する請求はその余の点について判断するまでもなく理由がないものというべきである。

第二被告組合に対する請求について

一  請求原因第1項ないし第3項の事実は当事者間に争いがない。

二  そこで、本件各処分に原告主張の違法事由があるか否かにつき検討する。

1  前記争いのない事実及び<証拠略>によれば、以下の事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

(一) 被告組合(原告は、設立当初から理事であった。)は、土地区画整理事業の実施にあたり、土地区画整理事業土地評価基準(<証拠略>)及び土地区画整理事業土地評価要領を定めた。

右評価基準においては、路線価式評価方法を採用しているが、右方法とは、整理前及び整理後の土地の評価をするにあたり、路線ごとに路線価を付し、これに接する画地(又は島地)の評価を、その奥行長の大小、間口長、土地の形状、道路との高低差等の各筆画地固有の条件を減価修正(評価基準一九条により、島地修正率のほか、間口狭小、三角地、傾斜地修正率等を定めている。)により算出する計算方法である。

そして、右評価基準においては、原則として、「従前の宅地及び換地は画地ごとに平方メートル当り指数及び総指数を算出するものとする。(九条一項)」とし、例外として、「特別の必要があるときは、隣接する数個の画地を合わせて一個の画地とみなして総指数を算出し、その総指数に符合するように各画地の平方メートル当り指数及び総指数を定めることができるものとする。(九条二項)」としており、また、画地が盲地(路線に接していない画地。いわゆる島地。一〇条五号)の場合は、その画地の指数に盲地修正係数(〇・九〇を乗じた値を指数とする(一九条五号)こととされている。

(二) 原告、鈴木及び横浜容器の6街区における従前地の位置関係は別紙図面1のとおりである。

横浜容器は、従前、別紙図面1の自己所有地六筆のほか、同図面の原告所有の本件土地及び鈴木所有土地二筆を賃借して、別紙図面4のとおり、工場用地として一体として利用していた。

(三) 被告組合は、昭和五二年七月一八日、第一次仮換地指定処分を含む仮換地指定処分をしたが、その際、横浜容器が本件土地や右鈴木所有地を含め、工場敷地として一体として利用していたことから、土地評価指数の算出にあたり、前記評価基準九条二項を適用して、右横浜容器、原告、鈴木の所有地計九筆を一体として評価したため、減歩率は、それぞれ横浜容器が一一パーセント(合わせ換地を含む。)、鈴木が一〇パーセント、原告が七・五パーセント(23街区の飛換地を含む。)となり、別紙図面2のとおりの位置関係となった。被告組合は、仮換地の努力発生の日と別に使用収益を開始できる日を定めることとし、右仮換地指定については、本件各処分がされるまで使用収益開始の日は指定されなかった。

(四) ところが、横浜容器及び鈴木から、右指定処分に対し、行政不服審査請求がされた。

横浜容器の不服内容は、仮換地指定後、鈴木に土地を返還することになっているので、右指定位置では、工場建物が鈴木土地や原告土地に接近しすぎてドラム缶の搬入搬出が不便になり困るということと、横浜容器、原告、鈴木の三者間の減歩率が不公平であるということであった。

鈴木の不服内容は、従前地がほぼ南北方向に細長い土地であったのが、仮換地ではほぼ東西方向に細長い土地となって利用に不便であるということと、横浜容器、原告、鈴木の三者間の減歩率が不公平であるということであった。

(五) これに対し、被告組合は、検討した結果、評価基準九条二項は、数筆の土地を同一の者が所有している場合の規定であるにもかかわらず、三名の所有者がいる本件の場合に誤まって適用したため、普通地である鈴木の土地より、盲地である原告の土地(原告本人は、本件土地が盲地でない旨の供述をするが、本件土地は、別紙図面1からも本件評価基準にいう盲地であることは明らかである。)が減歩率において有利な結果となるなどの不合理が生じていることが判明した。

そこで、被告組合は、原告の本件土地については、前記評価基準に基づき、盲地修正係数を乗ずるなどして土地評価指数を算定し直し、その減歩率を前提に、横浜容器、原告、鈴木の三者間の調整をはかって、昭和五三年初め頃には、別紙図面3のとおりの仮換地指定の変更案を作成した。これによれば、右三者の減歩率は、それぞれ、横浜容器が九・五パーセント(合わせ換地を含む。)、原告が二〇・一パーセント(23街区の飛換地を含む。)、鈴木が七・九パーセントとなった。

(六) 横浜容器及び鈴木は、右仮換地指定の変更案を受け入れ、行政不服審査請求を取り下げたが、原告は、昭和五三年五月、被告組合の理事を辞任し、被告組合からの再三の代替案の提示、説得にも応じるところがなかった。

(七) 被告組合は、他の仮換地指定についての不服申立てや調整及び原告の説得に長時間費したものの、原告の協力が得られないため、やむなく、昭和六〇年一二月一七日、第二次仮換地指定処分を前提とする本件各処分をした。

ちなみに、本件土地区画整理事業区域内には、盲地が約五〇か所あり、それらの平均減歩率は、二八・七パーセントであった。

(八) なお、鈴木は、昭和五三年六月六日、別紙図面3のとおりの仮換地指定を前提として、法七六条一項の許可申請及び建築確認申請をしたところ、法七六条一項の許可権限につき茨城県知事より委任されている日立市長は、既に右のとおりの仮換地変更案が内定していたことから、土地区画整理事業に支障ないものと認め、右仮換地についての使用収益開始の日(昭和六〇年一二月二四日)以前に、これを許可し、鈴木は、これに基づき建物を建築した。しかし、右建物は、原告の従前地である本件土地上に建てられたものではない。

2  ところで、行政処分が一旦された後においても、処分の効果を存続させることが公益に適合しなくなった場合には、これを取り消し、変更することも許される。このことと法九八条の規定に基づく仮換地指定処分は、換地処分のされるまでの暫定的措置であって、終局的もしくは確定的な性質を有するものではないことを併せ考えると、区画整理施行者が一旦仮換地の指定処分をした後においても、土地区画整理事業の施行上、前にした指定処分を取り消し変更することを必要とするような公益上の事情が生ずるに至った場合には、これを取り消し変更することが許されるものと解すべきである。

これを本件についてみるに、前記認定事実によれば、被告組合が第一次仮換地指定処分を第二次仮換地指定処分に変更したのは、第一次仮換地指定処分において、原告の所有する本件土地が横浜容器の所有する従前地に囲まれ道路に面しないいわゆる島地であるにもかかわらず、島地による画地修正がされず、隣接する横浜容器及び鈴木の所有する従前の土地が道路に面する画地であるのに比べて本件土地の土地評価を過大算出するという瑕疵を是正する公益上の要請に基づくものであると認めることができるうえ、前記認定のとおり、第一次仮換地指定処分後も、右仮換地の使用収益は開始されておらず、現実には、従来から借地をしている横浜容器が右従前地の使用を継続していたのであって、原告に事実上の不利益を与えたものではないこと、原告の減歩率は、他の島地に比して低く、特に原告が他の土地所有者に比較して不利益を受けているわけではないことなどを考え併せると、第二次仮換地指定処分を前提とする本件各処分によって原告の被る不利益を考慮しても、いまだもって右処分が公益に適合するものでないということはできない。

原告は、本件各処分が鈴木の違法な利用状態を是認するもので違法である旨主張するが、本件各処分がされた理由は右のとおりであり、鈴木の土地利用状況を容認するためにされたものではないから、原告の右主張は採用できない。

原告は、また、本件各処分が、第一次仮換地指定処分から長期間経過してされた点を非難するが、前記のとおり、被告組合は、本件各処分をするにあたり、再三、再四原告の了解を得るべく努力したというのであり、多数の土地所有者間の利害調整をはかるためにはある程度長期間を要することもやむを得ないものというべきであるから、右の点も本件各処分を違法ならしめるものではないというべきである。また、処分の相手方による不服申立てができなくなったからといって、処分庁による当該処分の取消し、変更が許されなくなるものではない。

三  従って、本件各処分には原告主張の違法はなく、原告の被告組合に対する請求も理由がない。

第三結論

してみれば、原告の本訴請求はいずれも理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 矢崎秀一 山崎まさよ 神山隆一)

別紙図面1<省略>

別紙図面2<省略>

別紙図面3<省略>

別紙図面4<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例